レコードの楽しみ
最近CDよりもLPを聞く時間が多くなりました。収集したLPの大半を2000年頃に売却したのですが、売れそうもない又は売りたくないと考えて手元に残ったLPを聞いて楽しんでいます。
レコードをよい音で聞くために
上の写真のように実体顕微鏡でレコード再生中の針先を観察して気づいた点を紹介します。
古いレコードでは、針先との摩擦により溝中のホコリや汚れ(針がレコード盤を削り取ったカス?)などが浮き上がってくる場合があり音が歪みます。静電気防止とか音質向上などに効果があるという薬液処理をした盤は特に浮き上がってくる汚れが多く音が歪みます。私は汚れたレコードは水と石鹸で洗いますが、薬液処理をした盤は数回針を通さないと歪みは低減しません。針圧が大きく、針先端Rの大きいカートリッジのほうが埃や汚れによる歪みが少ないような気がします。針先の清掃も重要です。私は使用毎にメラミンフォーム(スポンジ)で針先を擦っています。同時に盤面のホコリや汚れをブラシで取り除くことも忘れてはいけません。
最近、YAHOOオークションで中古MMカートリッジを入手するのですが、スタイラス・クリーナで針先の汚れを取り、接触不良気味のリード線をハンダ付けすると良い音で蘇ります。特殊形状針の高性能カートリッジは、汚れとホコリの全くない優秀録音盤の場合にはメリットがあると思いますが、普通の盤では安価な丸針のカートリッジのほうが良いのではないかと感じています。
ホコリと汚れと薬液が問題です。
レコード・プレーヤ
LPレコードを再生するためのプレーヤは現在でも製造されていますが、私は古いものを改造した糸ドライブ・プレーヤをヤフオクで入手して使用しています。音の良否は分かりませんが整備さえすれば長く使えると思います。
レコード録音機
OLYMPUS LS-20M
LPレコードを録音するためにリニアPCMレコーダーを使っています。私はデジタル機器に関しては無知ですが上記LS-20Mを選択しました。
これにはライン入力と外部マイク入力の2個のφ3.5mmミニプラグ端子(ジャック)があります。私は最初、ライン入力(39kΩ)を使っていましたが、フラット・アンプ無しのため、ややレベルが低くて困りました。そこでカートリッジを大出力のDJ仕様に変更しようか?、フラット・アンプを追加しようか?などと迷いましたが、マイク入力を使うことで問題解決したので紹介します。
上図のようにイコライザー・アンプの出力であるコンデンサー端子に40kΩ程度の抵抗を入れてミニプラグ出力コードをハンダ付けしました。外部マイクのインピーダンスは2.2kΩなので約1/20にレベルが下がります。私の常用カートリッジでは6db程度絞るとちょうど良いレベルになるようです。
チェンバロのLPは下に紹介した「落日の郷愁」で、鮮明な音が鼻づまりのような印象の音になり上手に録音できません。
(2012.09.23)
以下に再生装置のチェックに使うLPを紹介します。
落日の郷愁
Pioneer(Vox) , H-6004V , 1980?
ヤーノシュ・シェベシュティエン :チェンバロ
ポルトガルの鍵盤音楽 全11曲
カルロス・セイシャス(1704-1742)他のポルトガルの鍵盤音楽を収録したLPです。Janos Sebestyen(1931-)のチェンバロ演奏と録音が素晴らしいので紹介します。
修復した1点支持アーム付きのAT150を使い始めたところ、今まで聴いたことが無い鮮明な音が出て驚きました。音の立ち上がりが鋭いというか、ピンと立った音が聞こえます。昔はAT160ML等の高性能カートリッジをパイプアームに付けて聞いていたためか柔らかい響きの良いLPという印象でしたが、鋭い音も収録されていることが判りました。
録音時の加工やアラなどが明瞭に聞こえる装置になると、ポップス等のLPは聞くのが嫌になる場合が多いのですが、極少数のLPでは演奏や録音の素晴らしさに驚くことがあります。
ショパン - プレリュード作品28
PHILIPS , FH-25 , 1980 (オランダ・フィリップスのメタル原盤使用、1973年録音)
クラウディオ・アラウ :ピアノ
Chopin Preludes 全24曲
巨匠Arrauの演奏に圧倒されます。私にはピアノ演奏の優劣を聞き分ける力はないのですが、アラウは右の別CD表紙写真を見ても只者ではないという風格を感じさせる巨匠だと思います。オーディオ・チェック用LPなので音も良く、演奏の素晴らしさが実感できます。
本LPはカートリッジやアームの音色(特に低音)、性能(トラッカビリティー、歪)をチェックするのにも最適です。プレーヤの調整をしながら繰り返し聞いても、飽きずに演奏に引き込まれます。
J.S.BACH - ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ集
Harmonia Mundi , ULS-3297-8 , 1975 (1973 録音)
グスタフ・レオンハルト : チェンバロ / シギスヴァルト・クイケン : ヴァイオリン
BWV1014〜1019 全6曲
レオンハルトとクイケンというバロック演奏の大家による名演です。端正でありながら躍動感もある演奏で、バッハ作曲による「ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ」の素晴らしさが良く分かります。
チェンバロは再生装置の音質差(特に高音の音色やディテール再生能力)が良く分かる楽器だと思います。本LPは録音が良く細部がハッキリ聞こえるため、私のシステムで大音量再生するとウルサイと感じることがあります。
また、ヴァイオリンの再生は難しく、満足できたことはありません。本LPは、比較的やわらかい音色なので良いのですが、鮮明な録音のヴァイオリン独奏などは荒れた音になりがちです。
バッハ - フーガの技法
PHILIPS , 15PC78-79 , 1974年録音
アカデミー室内管弦楽団 / ネビル・マリナー指揮
フーガの技法、BWV1080 全22曲
バッハ晩年の傑作、フーガの技法です。指揮者Neville Marrinerはオーボエ等を用いた合奏とハープシコード、オルガンの独奏を曲により使い分けています。モノトーンの独奏と色彩感豊かな合奏がバランスよく配置されており、退屈しません。
このLPは聴いている間に眠ってしまうことがあります。退屈で眠るというのではなく、音楽に引き込まれると眠ってしまうのです。眠ってしまうとLPが回り続けて針がする減るのではないかと心配したこともあります。
バッハ - 無伴奏チェロ組曲
PHILIPS , 13PC143-44 , 1964年録音
モーリス・ジャンドロン : チェロ
無伴奏チェロ組曲、BWV1007-1012 全6曲
チェロ音楽の旧約と言われるバッハの無伴奏チェロ組曲です。演奏者Maurice Gendronはフランスのニースに生まれ、パリ音楽院を卒業した後にパブロ・カザルスに師事しました。
このLPは地味で印象の薄い演奏だと感じていましたが、最近になって愛聴するようになりました。軽快な演奏ですが、軽薄な演奏ではありません。録音も地味で特に印象はなかったのですが、最近、アームやカートリッジで試行錯誤しながら聞きかえしていると素晴らしい録音だということが感じられるようになりました。
42 Mother Goose Songs
Judson, J3024 , 1960年頃?
Alec Templeton :ピアノ、唄
マザー・グースの歌 全42曲
盲目のピアニストを紹介します。アレック・テンプルトン(1909-1963)は英国ウェールズで生まれた音楽家で、米国のラジオ番組などで活躍したそうです。生まれたときから盲目ながら正式な音楽教育を受け作曲もしたので、クラシック畑の音楽家に分類されるのでしょうか?
本LPでは子供向けにマザーグースを唄いながらピアノ演奏もしています。子供を笑わせようとか、驚かせようという優しい気持ちが感じられる演奏なのですが、大人も十分楽しめる質の高いものだと感じました。
私はAlec Templetonのことを知らなかったので調べた所、本LPの情報は見当たらなかったのですが、以下のJazz演奏を見つけました。
http://www.dailymotion.com/video/x15poc_moonglow-alec-templeton_music
本LPで特筆すべきは盤の品質が非常に高いことです。同様のものは特別注文により少数プレスされた日本盤1枚しか見たことがありません。このJUDSONというレーベルは受注生産品だったようで、多分、ニューヨークのお金持ちが子供のために注文したものでしょう。それが日本に渡り、最近500円程で私が入手したことに不思議な縁を感じたので紹介しました。
トリステーザ
Philips(日本), SFX-10562 , 1978(1966年録音)
バーデン・パウエル :ギター、他
オサーニャの歌 他 全10曲
右CDはBaden Powell - three originals(MPS , 519 216-2 , 1968,1975 /1993)
最近購入したBaden Powell(1937-2000)の中古LPが聞き覚えのある演奏だと思いCD棚を調べると同じ1966年6月1日、2日録音のものが見つかりました。そこで両者を聞き比べたところ、意外な差に気付きビックリです。
「オサーニャの歌」ではCDのほうが明らかに演奏テンポが速く、他の曲ではCDのほうが微妙に遅いようです。収録時間を比較しても「オサーニャの歌」以外は全てCDのほうが長く、例えば「トリステーザ」ではLPが3:09に対しCDが3:18と記載されています。「オサーニャの歌」は別テイクかも知れませんが、他は殆どが同一演奏のように聞こえます。(私は絶対音感がなく、聞き比べは苦手なので自信はありません)
音質に関してはLPのほうが響きの少ない細身の音で、CDは響きの多い太い音であり、多くの人はCDの音を好みそうです。しかし注意深く聞くとアコースティック・ギターの質感等はLPのほうが良く分かるので、多分、原録音テープに近いのはLP(Philips盤:O Som de Baden Powell)で、CD(オリジナル音源は1975年発売のMPS盤LP:Tristeza on Guitar)はJAZZ風味の音に加工されているのではないかと推測されます。つまり、Philips盤が素顔に近く、MPS盤は化粧してあるということです。
多くの人が好む音に加工するのは仕方ないかもしれませんが、録音速度まで変わったのは編集機材の不調によるものでしょうか?
同一録音のものであっても製作側の編集や機材により音の印象は変わるようです。
デジタル超絶のサウンド /ナイルのうた (Victer, SGS-32 , 1982)
The Talismen / FOLK (Prestige, PR7406 , 1965)
オーディオが趣味の人に録音が良いLPを紹介しようと思ったのですが、選択が困難なので、逆に悪い録音だと感じたLPを紹介します。
左はデジタル録音初期のLPで録音からカッティングまでの詳細解説が付いています。それに拠れば、マルチ・マイク集音、多重録音(一人二重奏)、デジタルエコーEMT251とグラフィックイコライザーSEA70を使用した編集がなされたとのことです。解説には生よりナマナマしい音と記されていますが、私には実体感の全くない、死んだようなボケた音に聞こえます。
右はJAZZの録音で有名なVan Gelder刻印の付いたLP(フォーク演奏)です。これには録音技術の解説はありませんが、残響の長いエコー処理がされているようで、不自然な音がイヤになります。手元にあるヴァン・ゲルダー録音のCDを数枚聞いたのですが、ライブ録音のものは素直な録音で良いと感じましたが、スタジオ録音のものは色々と化粧されているようです。(但し、JAZZでは化粧されていない録音は少ないと思うので、Van Gelder録音が悪いというわけではありません)
細かい音まで聞こえる敏感な再生装置では、きれいな音(多くの人が好む音)にするために編集・加工された録音が不快な音に感じる場合があり困ります。
私は厚化粧は好みでありません。薄化粧は必要かもしれませんが、素顔の美人がベストです。
CDかLPか?
最近JAZZを多く聞くようになってLPかCDかの選択を迷うようになりました。
民族音楽やクラシックの場合はLPのほうが安価に良い音源を入手できると感じておりLPを主に購入するようになりましたが、JAZZの場合はオークションで値段が上がってしまうことが多く、私の手の届かない価格で落札されます。
オリジナル盤やラベルの表記などに拘るコレクターが存在するため価格が高くなる有名盤の場合は、LPではなくCDを選択します。安価で入手が簡単なCDにはボーナス・トラックが追加されている場合も多く、針飛びや音揺れがない音で安心して聞けます。ところが、JAZZの場合は知識の豊富な人が多いためかCD化されていないような盤まで高価になるので困ります。最近はユーチューブなどでビデオを見て昔は知らなかった人のLPが欲しくなるのですが安価に入手することは難しそうなので、気長に出会うのを待つしかありません。(気長に待っていると聞くべき盤には自然に出会うと信じています)
CDとLPの音質差については色々と意見があるようですが、JAZZ の場合は、マスターテープの劣化が激しいか、ヘタな編集を行わない限りCDのほうが優れているだろうと思っています。
LPの方が良い音だと感じるのは、CDよりも手間やお金を余計にかけているためではないでしょうか?手間のかかるバカ息子のほうがカワイイとか、自分で手打ちしたソバは美味いという感覚に近そうです。物理的に良い音が出ているのではなく、高価なLP盤を購入したりプレーヤに手間をかけて微妙な音まで聞きとろうという意欲が高まっているため良い音に聞こえるのかも知れません。
針先やアームを変えただけで音が変化するので色々と手間やお金をかけて試行錯誤するわけで、これだけの事をやっているのだから手軽で安価なCDと同じ音のはずがないと思い込むのはしょうがありません。しかし、音色は変化しても音質としては同じようなレベルで堂々巡りをしているだけのような気もしてきた今日この頃です。(2009.12.20)
追伸)上記を読むとLPで良い音を聞くための試行錯誤は無駄だという誤解を招きそうなので追記します。試行錯誤することにより不具合を発見し調整・修理ができるようになりますし、音を聞き取り良否を判断する力も向上すると思います。ただし、カラオケや風呂場で唄うと良い声に聞こえるというのと同様に何かの外乱や響きが付加された音を良い音と判断する人が多いので要注意です。
最近入手したJAZZのCDを大音量で聞いた時にマスターテープを聞いているような安定した鮮明な音に感銘し、LPで同等の音を出すことは困難ではないかと感じたので上記の感想を述べました。
The World Saxophone Quartet
David Murray : テナー・サックス、バス・クラリネト/ Oliver Lake : アルト&ソプラノ・サックス / Julius Hemphill : アルト&ソプラノ・サックス / Hamiet Bluiett : バリトン・サックス、フルート
30年以上前の学生時代にジャズ喫茶でワールド・サキソフォン・カルテットのLPを聴いていた時の不思議な体験を紹介します。
説明し難いのですが、音が聞こえると同時に音が見えました。和太鼓奏者の林英哲さんは演奏会で「調子の良い時には音が風船のように見える」と話されていましたが、私は「どのような形の音が見えたの?」と質問されても「演奏者相互の応答(呼応)が形として見えた」としか回答できません。
その後は、音が見えると感じたことはなく、不思議な体験でした。
上記CDを聞き返してみても、音は見えませんが、政治討論会のような意味不明の話し合いというか、烏合の衆の大騒ぎのような音楽が聞こえます。難解な音楽だと思っていましたが、内容がない会話なので理解不能なのかも知れません。
昔は、上記CDと同様に難解な音楽だと思っていたモンクの演奏が、最近、子供が遊んでいるような単純でユーモアも感じる魅力的な音楽だと気づいたのとは印象が全く異なります。
音が見えるというのは特異な状況でしたが、今でも、感受性が高い時と低い時では、同じ音楽を聴いても、異なる印象を受けます。体調が良いときには音楽が良く聞こえますが、体調だけではなく、先入観を捨てた素直な心で音楽を聞くことが肝心なのではないか?と思うようになりました。(2010.05.30)